レモン一つ いのうえ つとむ
朝から日本晴れだ。雪国では大雪で大変だと聞く、横浜は温暖な気候でめったに雪は降らない。いつもメール便を配達する家に蜜柑や夏みかんや珍しい柑橘類を植えられた庭が在る。
「ああ!今年も立派なのが沢山実りましたねー」
「オレンジ?いやレモンだったよねー」
「そうレモンよ!レモンよ!よろしかったら一つ持っていくかね」
そう言いながら庭の草取りをしていたお婆ちゃんは鋏で大きいのを一つ切ってくれた。
「これが良いね、葉っぱをつけておくからね・・一週間ぐらい飾っておいて熟してきたら種を取ってジャムにすると良いよ」
「有り難う・・うれしいなー」
「奥さんにあげなさい」
笑っている顔は母を思い出すほどの年齢に見える。
頂いて手にしてみると、このレモンは夏みかんより遥かに大きい、洋ナシのような形をしている。
昨年の今頃だったと思う。
「この蜜柑見たことがないけれど何の蜜柑ですか」と聞いた。
「これレモンよ。ここへ越して来た時に植えたの・・苗を頂いて植えたのよ!こんなに立派な木になったの」その時も庭の草取りをしておられた。
毎日のようにレモンの木の家の前を通るのだが、時の経つのは早いものだ。レモンが今年も冬の日を浴びて黄色くたわわに実っている。もうお正月も目前だ。
庭で花の手入れをしている人、掃除をしている人、また赤ちゃんを乳母車に乗せて買い物に行く人、子供の手を引いている人、遇う人にその度事に僕は挨拶をして配達をしている。
挨拶を返してくれる人、知らん顔の人、それぞれだが、出会う人が何故か只すれ違っただけのような気がしないのだ。
出会いのこの一瞬が深い縁が在るような気がしてならないのは年のせいかもしれない。
レモンのお婆ちゃんもやはり声を掛けずにはおられなかった。
月日を重ねて一年経って「一つ持って行くかね」と言われるようになったのだ。まさか頂けるとは思って無かったので、今日はそれが非常にに嬉しいのである。
また新しい人間関係が出来た。人との関わりがこんなに温かいとは何故か嬉しい。いや友達が出来たのかもしれない。
(2005・12・22)
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- 2005/12/22(木) 23:03:52|
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この道は いのうえ つとむ
赤い楓が風に散る
遙かに続くこの道は
いまだ知らない
その面影を
胸に描いて通る道
ああ!心の妻よ
泣くなかれ
銀に輝く昼の月
雲間に見えるこの道は
いまだ聞けない
その人の声
心で聞いて通る道
ああ!心の妻よ
泣くなかれ
(2005・12・13)
(この詩は雨ちゃんの「この道」に寄せて雨ちゃんに贈る)
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- 2005/12/13(火) 21:04:34|
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この道 いのうえ つとむ
さわさわ
さわさわ
風は穏やか
さわさわ
さわさわ
落ち葉は散りて
さわさわ
さわさわ
冬の日差しに
さわさわ
さわさわ
胸は騒ぎて
さわさわ
さわさわ
この道遠く
さわさわ
さわさわ
遙か館の
さわさわ
さわさわ
ひと妻恋し
さわさわ
さわさわ
逸る心の
さわさわ
さわさわ
このやるせなさ
(2005・12・13)
(この詩は雨ちゃんの「この道」に寄せて・雨ちゃんに贈る)
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- 2005/12/13(火) 08:43:58|
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いのうえ つとむ
12月にもなるとさすがに朝は寒い、桜の落ち葉は意外と赤いものだとか、銀杏の葉は中々腰が強いとか思いながら、メール便の配達で街路樹の落ち葉を踏み少し奥まった家の前に来た。珍しく奥さんが白い猫を抱いて玄関に出てこられた。「真っ白ですね、可愛いですね」といつものように挨拶をしてから声をかけた。あまりに綺麗で品の良い猫なので「外国の猫ですか」と思わず口にした。「いいえ、日本の猫よ、それも野良ちゃん・・赤ちゃんの時、カラスに突付かれて後ろ足が動かなかったのよ」。よく見ると、なるほど後ろ足を引きずっている。「リハビリしてね、少しよくなって歩けるようになったのよ」。もし男なら貴公子、女ならお姫様、そう思われるほど気品の在る真っ白な猫である。僕が初めて見た交じり毛の無い白い猫だ。外に出たがるので玄関の柱に紐でつないでおくという。前に書いたエッセーの「三毛猫ミー」の鎖につながれた姿を思い出した。「放してしまうと他の猫の病気を移されるからね」「猫にもエイズが在るそうですね」「そうなのよ、猫にもエイズが在るのよ、怖いわねー」と話しながら真っ白な毛並みをなぜてみた。手入れの良い柔らかな毛だ。前の飼い主に捨てられカラスに襲われていたのを、幸運にも今の飼い主に拾われ、恵まれたごくまれな猫だと思う。
夕刊を配達している団地のゴミ置き場でいつも茶色の混じった黒い猫に合う。二ャーと鳴きながら僕の顔を見ると野生の性か垣根に隠れる。一度隠れてから、またでてきて挨拶をする.薄汚い猫だけれど可愛いものだ。言うなれば「猫のホームレス」だ。行動の鈍さを思うと年寄りのように見える。時々中学生の少女が背中をなぜているのを見かけた。在るとき二羽のカラスがこの猫を攻撃していた。僕が近くに寄って脅すとカラスは何くはぬ顔をして少しはなれたところでこちらを見ていた。年老いた黒猫は防戦一方で、もう少し遅ければ大怪我をしていたと思う。カラスの嘴は特に厚く丈夫だから、かなわないだろう。
それにしても最近は「黒猫ホームレス」の姿を見ない。どうしたのだろうか、心配である。元気ならば良いが、これから一層寒くなるのに。
(2005・12・9)
(このエッセーは愛猫家・水島美也子先生に贈る)
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- 2005/12/09(金) 20:04:59|
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