葉桜が風に揺れていた。孟宗竹の竹林にかこまれた白い家が見えてきた。
「ここだよ」と車から降りると
「おくさーん、大森です」
「はーい」
「今日は芹を採りに来たよ」
「どうぞどうぞ、何でも採っていって下さい。筍も又出ていますよ!」
明るい声がして奥さんが窓を開けられた。見ると品の良い白人の外人さんだった。
「お声だけでは外人さんとは解りませんね。日本語が上手ですね」と大森さんに聞くと
「そうだよ、日本語はぺらぺらだからなー、一年に一度はドイツに帰られると聞いている」と笑いながら話してくれた。
芹を少し採ってから玄関に来て
「これが芹だよ」と大森さんは芹を見せながら,トラックの荷台の中の新鮮な野菜を一箱手渡していた。
「有り難う!」と返事をしながら奥さんが出てきて嬉しそうに野菜の箱を受け取っていた。
大森さんは自分で作った野菜を何時も今日のようにお届けしているのだな?と思った。
「ここにも野蒜があるよ、井上さんこれ採ってもいいよ」と玄関脇の草の中を教えてくれ、大森さんは筍が生えてきたという庭の奥ヘ行った。
しばらく野蒜を採っていると一台の車が玄関前に入ってきた。
車から降りられた方がここのご主人だな?と思ったので
「今日は」と挨拶をすると
「どちらさんでしょうか」といぶかしそうな顔をされていた。
それもそのはず、見知らぬ爺さんが自分の玄関先で草を採っていては、 不審に思うのが当然だ。
「あの・・大森さんと」と言うと、すかさず
「あ!そう」とにこりと笑われた。この返事の一言で、大森さんの人柄の良さが分かった。
大森さんと奥さんが玄関に戻られたので、芹の食べ方や野蒜の食べ方を教えながら「美味しいよ」と話して、採った芹と野蒜を渡そうとすると
「せっかく採ったのだから持って行ってくださいよ、まだいくらでもありますから」と僕に譲ってくれた。 凄く感じの良い方だなーと思った。
「インターネットされていますか」と、なんだかパソコンをしているような感がしたのでそれとなく聞いてみた。
「うん、少しだけれどね」
「ああ!良かった僕もブログ書いているんですよ!」
「へー・・凄いじゃん、見たいナー」
「詩とエッセイだけれど、昨年の五月から始めて300編ぐらいになりました。拙いものですが・・」
「ぜひ読みたい、教えて!」
「ヤフーで、でんどう三輪車で検索して下されば出ると思います」
「おーい、ケンチヤン、メモ持って来て!」
中から小学校の5年生ぐらいの子供さんがメモの紙とボールペンを持ってきてくれた。
でんどう三輪車と自分の住所、氏名、電話番号を書いて渡すと、ご主人も同じようにご自分のを書いて渡してくれた。
「車の中で食べて下さい」と帰り際、奥さんの作られたケーキをポケットに入れてくれた。
今まで大和撫子のカップルは良く見掛けたけれど、今日、素晴らしいご主人に会って、外国の女性に好かれる、魅力のある日本男児の方が居られるんだなーと、ツクヅク思った。日本の男性が魅力に欠けるので、外国の女性にもてないのだという、今までの偏った思いを考え直した。
「ここのご主人は、音楽家なんだよ。俺は演歌だけれど演歌ではないんだ。クラシックを演奏されているんだよ。上智大学を出られているんだ」と運転しながら大森さんが話してくれた。
あの品格と人柄を思うと、なるほどと思った。
しばらく畑の中の道を車が走り、芹が一面に生えている休耕田で芹を摘んだ。
それから大森さんの知り合いの葡萄園の農家に立ち寄った。
明るい話好きの奥さんが、いろいろな庭の花を案内して見せてくださり、ハーブのミントを植えるようにと、一束お土産にくれた。
車の中でもハーブの良い香りが漂っていた。
4月の月初めに、箱根の姫の湯で山に登った帰りに立ち寄ったという大森さんと温泉で知り合った。帰りは電車で茅ヶ崎まで帰られるという事なので帰りを共にして電車の中で話が弾んだ。
「少しばかり畑を作っていて、会社は55歳で退職し、今は朝2時には起きてね、牛乳配達の仕事をしているんだよ」と自己紹介してくれた。自分も今、メール便の配達と夕刊の配達をしていると話した。
「雨が降っても風が吹いても仕事があるからなー」と同じ苦労話が一致した。
「僕は芹が大好きなんだけれど、どこか芹の出ているところは無いかねー」と話をして、自分の名前と連絡先をメモして渡した。
先日、突然・・大森さんから電話が来て、
4月23日、買ったばかりの980円の長靴を履き、茅ヶ崎の駅で待合せて、芹を採りに連れて行ってくれた。
車は街から随分離れて山の中に入って行つた。走っている車の窓の外を見ているとタンポポが咲き、どの農家の屋敷も蕗が生えていて美味しそうに見えた。
それが今日の良い出逢いになった切っ掛けである。
帰りも大森さんに茅ヶ崎の駅まで送っていただき、大森さんと又姫の湯で会うことを約束して別れた。
時間があったので、箱根の姫の湯で疲れを取って、ゆっくり家路に着いた。
今日の一日は、良い出逢いがあり、人生の一ページを飾れたことに感謝の思いで一杯である。
(2006・4・23)
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- 2006/04/24(月) 16:40:48|
- 小説・エッセイ|
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