僕には 幸福な部屋があった
それは狭い粗末な部屋のように
人間どもは言うが
僕にはそうは見えない
にぎやかで楽しく親切な部屋であった
どうしてと言うと
ベットは古い林檎箱が二つと
雨戸で作ったもので
しっかりと抱いてくれたし
それにとっても温かい
母の作ってくれた木綿の布団もある
隅のほうでは本箱や机が
いつも話しかけてくれたよ
朝ともなれば 小鳥や木の葉がやってきて
見舞いに来てくれたよ
だが人間どもはこの病室を見ると
病気がうつると言って
跳んで逃げて行ったよ
でもこの部屋は 僕にはやさしい部屋だ。
{昭和25年・中学2年}
僕はこの頃、『健全なる身体に健全なる精神が宿る』という言葉が一番嫌いであった。体の不自由な者や病身の者には『健全なる精神』は宿らないのかと心の中で一人・反発した。長い間・床についていると体温で畳が体の形に腐ってくる。また畳の上に布団を敷いて寝ると埃を吸う。だから父と二人・雨戸のベットを作ってもらい、枕を並べて絶対安静の日々がつずいた。まだストレッフトマイシンのような特効薬が無かった。「生卵を胸の上に乗せていると思って安静するんだ」と・・父の口癖だった。安静しか治療する方法は無かった。
スポンサーサイト
- 2005/05/07(土) 21:00:12|
- 私のうた|
- トラックバック(-)|
- コメント:5